編集後記 -大会を終えて-

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~ 銀傘の陰から ~
 
 第89回全国高等学校野球選手権大会が無事に閉幕しました。今大会は決勝戦を含め大会15日間中9日間を視察しましたが、接戦が多く、すばらしい感動を与えてくれました。今年、最も注目された中田翔選手擁する大阪桐蔭が地方大会で敗退し、少々寂しさのある中、大会が始まりました。しかし、高校野球は“怪物”が魅了するのではなく“試合そのもの”が魅了するものであることを実証してくれました。決して作られたものではない、「若人のぶつかり合い」こそが接戦だろうが、大差がつこうが観るものに自然と拍手を贈らせるのでしょう。

 夏の頂点を決める決勝戦もまれにみる好試合となりました。結果は甲子園の大観衆を味方にした佐賀北が見事な逆転勝ちで初優勝を飾りました。野球エリートではない県立普通科の選手達が一戦一戦力をつけ勝ち上がりました。高校生は3年間で見違える程成長しますが、佐賀北を始め今大会は一戦、一日毎に成長している姿を実感しました。
 

 決勝戦を含め、田舎の県立校の快進撃に甲子園の観衆は佐賀北に味方する試合が多いかたちとなり、帝京や広陵等の対戦相手の選手達には厳しい戦いを強いられるものとなりました。しかし、それは彼らの実力を認めているから起こる甲子園独特の雰囲気でもあります。私学にいくことは、公立よりも厳しいレギュラー争いがあり、勇気のいることであると見るものも知る必要があり、私学、公立で区別するのではなく、目の前の試合を賞賛する姿勢を学ばなくてはなりません。

数ある印象に残るプレーの中から2つ程、ご紹介します。

勝戦広陵高校の攻撃

 逆転された9回表の広陵高校。先頭打者の林君は最悪のムードの中、三遊間を破り出塁しました。次打者の犠牲バントで2塁をまわり一気に3塁を狙いましたが、惜しくもアウトになりました。無謀な走塁ではありましたが、果敢に勝負に出でベンチに戻る林君に1塁側スタンドは拍手を贈りました。佐賀北への大歓声で消された為、テレビを観ている方は気づかなかったと思いますが、あの空間ではそうことがあったのです。


準々決勝の帝京高校の守り

 8回表の守備で、二遊間へのゴロを二塁手・上原君が遊撃手・杉谷拳士君にグラブトスし、さらには杉谷君からのショートバウンド送球を一塁手・中村君が好捕し打者走者をアウトにするという見事な連係プレーがありました。
 ここでは詳述しませんが、野球に精通しているものからすると、単に見た目のうまさだけではなく、もっと奥深いレベルの高さを感じさせるプレーでした。このときばかりは球場全体で、芸術的プレーを称えました。

 間違いなく、広陵高校帝京高校も強いチームでした。



さて今年の高校野球は特待生問題で揺れ、春季大会を選手、学校が出場辞退するケースが相次ぎました。特待生制度を今更、急に問題視し、混乱を来した高野連の対応には何ら準備、計画性がなく特待生制度や野球留学は即悪という短絡的な発想から短絡的な対応に終始したことは否めません。
 甲子園大会のルーツは時の高校生の手によって生まれたという歴史性を考えると、一年のほとんどを事務所で過ごし、お腹が出ている役員が決めるのではなく、グランドで汗する高校生が決めるべきものであるという視点で考えるべき問題です。

 本紙の考えは下記。
 甲子園が野球留学や特待生制度を利用してでも目指すべき価値がある舞台であることを前提に

 ①記念大会だけではなく、神奈川、大阪、愛知等学校数の多い地区の出場校を増やすこと
  ⇒4000校以上に登る学校を制度で管理するよりも、出場校数増加に伴う運営の問題点を解決する方が、余程、現実的で合理的であること。野球留学や特待生制度を規制することによる学問・居住の自由を認めている憲法等の問題にも影響しない。

 ②野球留学や特待生制度を即悪という発想ではなく、善と悪の視点をバランスよくもち、議論すること
  ⇒野球留学や特待生制度をとっても甲子園に出場できない選手や学校はある。佐賀北のように公立で地元の選手だけで勝ち上がる例もある。また、野球後進地域の活性化をもたらす側面もある。まずやるべき優先順位は強い地域と弱い地域、強い学校と弱い学校がなぜ発生するのかを客観的に検証していく作業をなくして議論しても意味がないということ。強い理由は何だったのか、選手を集めたからか、指導方法がよかったのか、指導がいいのであれば、どのような練習を積んできたのか。そういったことを心身両面で分析していくことが大事であり、その結果を高校野球の財産していくべきだ。

 野球留学や特待生制度の問題等関係なく、今年の高校野球・甲子園でも多くの刺激を与えてくれました。他の高校生が遊んでいる中で彼らは監督に怒鳴られ、苦しい練習に耐え、仲間を信じ、ただひたすら甲子園への険しい道を歩んで来たのです。多くの人達は、「高校野球=甲子園大会」であると思っています。しかし、甲子園の戦いは、代表49校で行われるごく一部の高校野球にすぎません。ごく一部の戦いですらこんなにたくさんの接戦や感動があります。つまり、地方大会で涙した4032校にはどれだけ壮絶で切ない、無情な戦いがあったことでしょう。甲子園は、4032校もの涙によってその尊さが増し、そして目指すべき価値のあるものにしているのです。

 決勝戦の翌日、大阪地方では雨が降りました。今大会はほとんど雨がなく、猛暑と炎天下の中、試合が消化されグランドは荒れていました。そんな頑張った球場をクールダウンさせました。熱戦の後でお天道様も粋な計らいをするものです。
 もやは恒例のコメントとなりましたが、今年も、年に2回も白球を追うひたむきさと刺激を与えてくれ、人として原点回帰させてくれる球児達に心から感謝し、今後も高校野球、甲子園の文化が続いていくことを切に祈りたいと思います。

 最後に今大会もKAIスポ・夏の甲子園コラムを“ご購読”頂いた皆様に深く感謝申し上げます。まだまだ残暑が厳しい日が続いておりますが、皆様どうぞお体ご自愛頂き、ますますご発展されますことをお祈り申し上げます。

 -2007年8月25日 KAIスポーツ新聞社・夏の甲子園取材班-
☆☆☆ 2007年秋 甲子園リニューアル開始! 歴史・伝統そして新時代へ KAIスポ!! ☆☆☆